メンタルヘルス等が原因で休職していた労働者が職場復帰をする際に、労働者側から「主治医の診断書」が提出されることが多いですが、会社側としてはその内容を信用できず、「産業医の診断書」の提出を要求したいという場合も多いと思います。
そこで、今回は「主治医の診断書」と「産業医の診断書」の特徴や裁判例について説明します。
職場復帰の判断について
そもそも、労働者が職場復帰をする意向を示した際に、休職の理由となった事由(休職事由)が消滅しているか否かを判断する最終的な判断権は、従業員に対して安全配慮義務を有する会社側にあります。
しかしながら、従業員が治癒しているか(していないか)の判断は、医学的な専門的知識・診断が必要となるため、事実上、医師の診断書をもとに当該診断内容を尊重して、会社側が休職事由の消滅の有無を判断することになります。
主治医の診断
多くの場合は、まずは労働者側が自身の主治医から職場復帰に関する診断書を会社側に提示することが多いかと思います。
主治医の診断は、従業員のことを長期間にわたって診察しており、また直接の聴き取りも複数回実施している等もあり、詳細な診断がなされていることが多いという特徴があります。
他方で、主治医による職場復帰に関する診断書は、「病状のみ」の診断によって職場復帰の可否を判断していることが多く、「実際の職場で要求される程度」に症状が回復しているか否かに着目して診断がなされていない場合も多くみられます。
また、事実上の問題点として、病状とは関係なく、労働者自身の希望が診断書に強く表れてしまっているという場合もあります。
産業医の診断
産業医の診断は、上記の主治医の診断とは異なり、「実際の職場で要求される程度」に労働者の病状が回復しているか否かという判断を行うことが目的ですので、その点の信用性は高いものになっています。
もっとも、産業医は主治医とは異なり、労働者のこれまでの診察経過を詳細に把握していないことや、そもそも産業医は必ずしもメンタルヘルスに関して専門的知識を有しているわけではない(内科専門である等)などの問題点もあります。
○ | △ | |
主治医 | ・労働者の病状の経過を詳細に把握している | ・「病状」のみの判断で、「実際の職場に復帰できる程度」に回復しているかの判断をしていない場合が多い ・労働者の意見が強く押し出されている |
産業医 | ・職場に復帰できるかの実質的な判断が可能 | ・労働者の症状の経過を詳細に把握していないことが多い ・心療内科知識に精通しているとは限らない |
主治医と産業医の診断が相違した場合
上記のとおり、主治医、産業医の診断は互いに特徴があり、どちらの診断書がより尊重されるべきだという画一的な判例やルール等は定まっていないというのが実情となっています。
主治医と産業医の診断が相違した際の裁判例として以下のようなものがあります。
・主治医が復職可能、産業医が復職不可とした場合において、主治医の診断が採用され、復職を認めるべきとした事例(横浜地判平成30年5月10日)
・主治医が作成した診断書の信用性を否定し、復職不可とした判断を認めた事例(横浜地判平成29年6月6日)
これらの裁判例は、診断書の信用性について、診察の期間・頻度、診断根拠となる資料の有無、医師の属性(専門医か否か)等の要素を総合的に考慮して、その信用性を判断している傾向にあります。
以上のように、主治医又は産業医の診断書についての最終的な判断権は会社にありますが、そのような問題が起きる前に、労働者の了解を取った上で、主治医からの意見収集等をしたり、主治医に対して実際の労働環境を伝えたうえで復職可否の判断をしてもらうことができるような環境を整えておくことが重要となります。
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コメント
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[…] 以上が、職場復帰支援の手順となりますが、心の問題については専門的知識が必要となる場面も多く、対応を間違えてしまうと、再療養をせざるを得なくなってしまうケースや、時には会社側が法的責任を負う可能性もあります。また、職場復帰支援の際には、労働者のプライバシーに配慮(同意書等の取得)が必要であったり、産業医と主治医の判断が分かれた場合の対処方法等、様々な問題が存在します。→主治医と産業医の診断の違いについては、こちらのブログをご覧ください。その際は、各弁護士ともに官庁・企業における豊富な実務経験を有するUtops法律事務所にご相談ください。 […]