従業員が懲戒解雇等によって会社を辞める際の退職金の取り扱いについて説明します。
退職金請求権について
そもそも退職金を会社の制度として導入するか否かは、それぞれの会社の裁量に委ねられているものではありますが、現状多くの会社で退職金制度が導入されています。
そして、会社の就業規則や労働慣行、又は個別合意等によって退職金の支給金額・条件等が具体的に定まっている場合には、退職金請求権が従業員に生じることとなります。
退職金を不支給・減額する際の注意点
退職時にトラブル等が発生し、従業員への退職金を不支給・減額とする場合には、どのような点に注意すべきでしょうか。
(1)不支給規定・減額規定の存在が必要
退職金制度を導入している会社において、退職金の不支給・減額決定を行うためには、就業規則や退職金規程等に退職金の「減額事由」や「不支給事由」を明確に規定しておく必要があります。
(2)不支給決定の合理性が必要
もっとも、裁判実務上においては、上記のような不支給規定があったとしても、退職金について不支給又は減額とすることができるのは、「労働者のそれまでの勤続の功労を抹消してしまうほどの著しく信義に反する行為があった場合」に限定されています。
このように退職金の不支給・減額事由が限定される趣旨は、一般に退職金には、①退職までの労働の対価である賃金の後払い的な性格と、②功労報償的な性格を有するところ、①の性格を含む場合は、退職金の不支給は賃金の強制的な減額という事態になってしまうため、労働者保護の観点から、相当に合理的な理由が要求されることになります。
どの程度の退職金不支給・減額等が認められるかについては、背信行為の性質(業務に関するものか、私生活上の事由に関するものか)や、会社に対する損害の程度などの事情によっても異なることになります。
【判例】
・痴漢行為を行った鉄道職員が懲戒解雇となったところ、懲戒解雇は有効としたが、退職金の全額不支給は相当ではなく、3割相当額の退職金支給を認めた例(東京高判平成15年12月11日)
・社外秘である情報を漏洩したことについて、退職金の全額不支給は相当ではなく、3割相当額の退職金支給を認めた例(東京地判令和2年1月29日)
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