離婚するときに年金分割しないとどうなるのか?年金分割に必要な手続きについても

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離婚をする場合に、離婚後の生活をする場所や、お子様の通学先を変えるのか、収入の確保といった目の前の生活についての現実的な問題はもちろん、親権、養育費、面会交流、財産分与など、決めておくことや対応しておくべきことがたくさんあります。

その一つに「年金分割」があります。

年金分割の結果が表れるのは、将来ご自分が年金を受給する場面です。
そのため、他の事柄に比べて見落としがちかもしれません。しかし、手続ができる期間の制限もありますので、年金分割についてもちゃんと決めて対応しておく必要があります。

この記事を読んでいただくと、次の3点がわかるようになるはずです。

  • 年金分割とはどのような制度か
  • 年金分割をしないとどうなるのか
  • 年金分割の手続と手続できる期間

年金分割とは

年金分割とは、離婚の際に、夫婦が婚姻してから離婚までの期間中(婚姻期間中)における夫婦それぞれの厚生年金・共済年金の保険料納付記録の合計額を、当事者で分割することです。

なお、この保険料納付記録とは、厚生年金でいえば、保険料の算定の基礎となる「標準報酬」の額=標準報酬月額と標準賞与額のことです。

つまり、将来支給される年金額それ自体を分割するというわけではなく、将来年金受給する際の年金額を算定する基礎となる標準報酬について、夫婦の一方の標準報酬の一部(分割された分)の保険料を納付したと扱ってもらい(自分の標準報酬にしてもらい)、それを基に将来年金額が算定されるようになる、ということです。

ですから、年金分割を受けた側は、将来受け取れる年金額が増えることになります。

年金分割をしないと将来受給できる年金が減る?

年金分割をしなかった場合、分割を受ける側にとっては、年金分割をした場合に貰える年金額と比べると、将来受給できる年金額は減ることになります。

そのため、年金分割を受ける側としては、離婚するうえでは年金分割をした方が経済的メリットがあるというわけです。

すべての夫婦が年金分割できるわけではない

年金分割を受ける側としては、離婚するうえで年金分割をした方が経済的メリットがありますが、すべての夫婦が年金分割をすることができるわけではありません。

年金分割の対象となるのは、2階部分と言われる厚生年金(共済年金)だけで、1階部分と言われる国民年金は対象とはなりません。

年金分割の対象となる年金加入者は次のとおりです。

①第2号被保険者(厚生年金(共済年金)加入者である)
 =厚生年金適用事務所に雇用されている方
  例≫会社員、公務員

②第3号被保険者(第2号被保険者の配偶者)
 =第2号被保険者に扶養されている20歳以上の60歳未満の方
  例≫配偶者が会社員や公務員である専業主婦(夫)

したがって、第1号被保険者(自営業者、農業従事者等と、その配偶者など、第2号・第3号保険者以外の方)については、離婚に際して年金分割は問題とならないわけです。

会社員、公務員など厚生年金適用事務所に雇用されているご夫婦や、夫婦の一方が会社員、公務員などでもう一方が専業主婦(夫)であるご夫婦は、離婚するうえで年金分割を考えておきましょう。

年金分割に必要な手続

年金分割では、分割の対象となる夫婦が婚姻してから離婚までの婚姻期間中における、夫婦それぞれの厚生年金(共済年金)の標準報酬を合計した総額のうち、一方に割り当てる割合(按分割合)を決めます。

そして、この按分割合を決めるには、(1)合意分割と(2)3号分割の2種類があります。
その違いと、手続は次のとおりです。

(1)合意分割

離婚する夫婦の間の合意で、対象となる期間の夫婦それぞれの厚生年金(共済年金)の標準報酬を合計した総額のうち、一方に割り当てる割合(按分割合)を決めます。
当事者だけではこの按分割合が合意に至らない場合、当事者の一方の申立てがあれば、家庭裁判所の審判、調停、離婚訴訟の判決や和解で決定されますが、これも合意分割です。

手続

まず、日本年金機構に対する標準報酬改定請求をする必要があります。
これは、年金事務所にて手続を行います。
原則として、離婚成立時から2年以内に行う必要がありますので忘れずに行いましょう。

①「年金分割のための情報通知書」の取得
まずは、年金事務所で情報通知書を取り寄せます。
情報通知書には、年金分割の「対象となる期間」やその期間の「標準報酬額」など、年金分割の按分割合を決定するために必要な情報が記載されています。

②按分割合の合意等
夫婦間の合意、それでは決まらない場合は、家庭裁判所での審判、調停、または離婚訴訟で決定されます。

③標準報酬改定請求
年金事務所で日本年金機構に対して、対象期間の標準報酬改定請求をします。
請求の際は、年金分割の按分割合を決めた方法によって提出するべき種類も違いがあります。

【家庭裁判所での調停、審判、判決、または和解で決まった場合】
按分割合を定めた、確定した審判、調停調書、確定判決、または和解調書の謄本や抄本を提出します。

【家庭裁判所外において当事者間で合意して決まった場合】

  • 当事者(またはその代理人)双方が署名した年金分割の請求書を、直接年金事務所に持参して提出する。
    または、
  • ②按分割合を合意した公正証書の謄本や抄録謄本、もしくは、公証人の認証を受けた私著証書を提出する。

なお、当事者それぞれの氏名、生年月日、基礎年金番号、標準報酬改定請求すること、および、合意された按分割合が記載されていることが必要です。

(2)3号分割

当事者間で分割の割合を決めることも、相手の合意を得ることも、家庭裁判所に関与してもらうこともなく、対象期間の標準報酬を当然に2分の1の割合で分割する制度です。

この制度の対象になるのは次の場合です。

①平成20年4月1日以降の期間において
②婚姻期間中に、夫婦の一方が第2号被保険者で、もう一方が第3号被保険者であった期間がある期間(例:夫が会社員で、妻が専業主婦だった期間)

そして、年金分割を受ける被扶養配偶者だった方から厚生労働大臣に対して年金分割改定請求する(必要書類を年金事務所に提出する)ことで行うことができます。
原則として離婚した日の翌日から起算して2年以内に請求することが必要です。

手続

まず、標準報酬改定請求書及び下記の書類を添えて年金事務所に提出します。
もちろん、3号分割の場合でも、「対象となる期間」やその期間の「標準報酬額」などの情報を得るために「年金分割のための情報通知書」を取得しておくことはよいでしょう。

【提出書類】
①基礎年金番号またはマイナンバーを明らかにすることができる書類
請求者の基礎年金番号通知書または年金手帳等
個人番号カード(マイナンバーカード)等

②婚姻期間等を明らかにすることができる書類
戸籍謄本(全部事項証明書)、または戸籍抄本(個人事項証明書)のいずれか
事実婚関係にあるときは、事実婚関係にある期間の住民票等

③請求日前1カ月以内に作成された元夫婦の生存を証明できる書類
それぞれの戸籍謄本(全部事項証明書)、戸籍抄本(個人事項証明書)または住民票のいずれかの書類(請求書に個人番号(マイナンバー)を記入することで省略可)

④離婚の届出をしていないが事実上離婚状態にあることを理由に3号分割を請求する場合は、離婚の届出をしていないが事実上離婚したと同様の事情にあることを明らかにすることができる書類(住民票等)、および双方が当該事情を認めている旨の申立書(夫婦それぞれの署名があるものに限る。)

平成20年4月以降に離婚した場合で、平成20年3月以前の対象期間を含めて、改定請求を行った場合は、同時に3号分割の請求をしたものとみなされます。
つまりこの場合は、3号分割の請求手続を行う必要はありません。

まとめ

いかがでしたか?
最後に今回の内容を振り返ります。

1.年金分割とは

  • 年金分割は、第2号被保険者(厚生年金(共済年金)加入者である方)同士や、第3号被保険者(第2号被保険者の配偶者)との元夫婦において行うもの
  • 2階部分の厚生年金(共済年金)の保険料納付記録(厚生年金でいえば、保険料の算定の基礎となる「標準報酬」の額=標準報酬月額と標準賞与額)を分割するもの

2.年金分割をしないとどうなるか

  • 年金分割を受ける側としては、年金分割する場合に比べて将来受給できる年金額が減ってしまうことになります。

3.年金分割の手続

【合意分割の場合】

  • 「年金分割のための情報通知書」の取得
  • 当事者間で按分割合の合意・家庭裁判所での手続での決定
  • 年金事務所で標準報酬改定請求

【3号分割の場合】

  • 年金事務所で標準報酬改定請求

どちらの場合も離婚した時から2年以内に手続きをとる必要があります。忘れずに手続しましょう。

年金分割は離婚をする上では考えておくべきことですので、年金分割について疑問を持ちになったりお悩みの方は、弁護士へのご相談をお勧めいたします。

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